「色気より食い気」とはよく言ったもので、最近の私は、昔ほど男の人に胸がときめかなくなり、その分、おいしいもののことばかり考えている。
私は食费にものすごくお金を遣う。気を遣ってご驰走されるよりも、自分で好きな物をたらふく食べた方がずっといいからだ。私は最近ダイエットのため、アルコールを饮まない。その分、舌が敏感になり、まずいもんはイヤッという感じである。
流行の店にもすぐ行くし、雑志においしい、と出たところは切り抜いてとっておく。が、雑志のああいうグルメ记事はあてにならないことが多い。
何年か前に「オムライスのおいしい店」というのがあり、男友だちとさっそく出かけていった。ところが、靴を脱いで上るようなシャビーな店だ。しかも普通の家を改装しているので、私达は阶段の下に座らされた。驯じみのお客らしいのがグループで来ていて、カウンターに阵どっている。そういう人たちを相手におじさんは
「いやあー、最近うちもマスコミに出ることが多いから、一见さんが増えて……」
とか言って、自慢しているではないか。おまけに肝心のオムライスが来るまでにいろいろ食べなくてはいけないコースになっていて、どれもすごくまずかった。もちろん、二度と行っていない。